厚 生 労 働 省 東 京 労 働 局 発 表 平成21年8月28日 |
担 当 |
東京労働局労働基準部監督課 監督課長 松田 明 監察監督官 電 話 03-3512-1612(内線6411) |
過重労働による健康障害を発生させた事業場に対する
監督指導結果について
東京労働局(局長 東 明洋)は、管下18の労働基準監督署(支署)が平成20年度に実施した過重労働による健康障害を発生させた事業場に対する監督指導結果の概要を以下のとおり取りまとめました。
監督指導の結果、これら事業場の多くに労働時間管理、健康管理の不備等が認められたことを踏まえ、東京労働局では、引き続き長時間労働の抑制及び過重労働による健康障害防止に向け、一層積極的に監督指導を実施することとしています。
また、東京労働局においては、毎年9月を「過重労働による健康障害防止推進月間」と定め集中的な啓発活動を実施していますが、本年度においては、来る9月4日に「第14回 産業保健フォーラムIN TOKYO 2009」(九段会館)を開催し、関係労使に止まらず広く国民一般に対し労働者の健康の確保について意識啓発を行うこととしています。
【監督指導結果の概要】
1 監督指導を実施した57事業場の84%(48事業場)に法令違反が認められ、是正勧告を行った。
違反項目別では、労働基準法では労働時間(同法第32条)に関する違反率が61%と最も高く、また労働安全衛生法では衛生委員会の設置(同法第18条)に関する違反率が30%で最も高い結果となった。
2 監督指導を実施した57事業場のうち23%の13事業場では、過重労働による健康被害を受けた労働者(以下「被災労働者」という。)に対し、発症前の1年間に健康診断(採用後1年未満の者は雇入時の健康診断を含む。)を受診させていなかった。
3 同じく61%の17事業場では、発症前の健康診断で何らかの所見が認められた被災労働者に対し、健康診断の事後措置を講じていなかった。
4 同じく63%の36事業場では、被災者が発症した時期に、医師による面接指導等の措置を講じていなかった。
5 発症後、長時間労働の是正や、医師による面接指導等について自主的に改善を行った事業場は、47%(27事業場)であった。
1 監督指導の概要
(1) 実施時期
平成20年4月1日~平成21年3月31日
(2) 目的
過重労働による健康障害を発生させた事業場に対し、原因の究明及び再発防止対策を徹底させること。
(3) 対象事業場
労働時間の不適正な管理、長時間労働や不適切な健康管理を原因として過重労働による健康障害を発生させ、労働基準監督署長が労災認定を行った57事業場。
2 対象事業場の概要
(1) 業種別内訳(表1)
「本社事務所等」が最も多く14事業場、次いで「卸・小売業」の9事業場、以下、「製造業」、「運輸交通業」の7事業場などの順となっている。
(表1) 業種別内訳
業 種 | 事業場数 | 比率(%) | 業 種 | 事業場数 | 比率(%) |
---|---|---|---|---|---|
製造業 | 7 | 12.3 | 教育・研究業 | 3 | 5.3 |
建設業 | 3 | 5.3 | 保健衛生業 | 3 | 5.3 |
運輸交通業 | 7 | 12.3 | 接客娯楽業 | 4 | 7.0 |
卸・小売業 | 9 | 15.8 | 清掃業 | 2 | 3.5 |
映画・演劇業 | 3 | 5.3 | 本社事務所等 | 14 | 24.6 |
通信業 | 2 | 3.5 | 合 計 | 57 | 100.0 |
(2) 規模別内訳(表2)
規模別では、「10人~50人未満」が最も多く24事業場、次いで「100人~300人未 満」の12事業場、以下、「50人~100人未満」、「10人未満」などの順となっている。
(表2)規模別内訳
規 模 | 事業場数 | 比率(%) | 規 模 | 事業場数 | 比率(%) |
---|---|---|---|---|---|
10人未満 | 6 | 10.5 | 100人~300人未満 | 12 | 21.0 |
10人~50人未満 | 24 | 42.1 | 300人~1000人未 | 5 | 8.8 |
50人~100人未満 | 7 | 12.3 | 1000人以上 | 3 | 5.3 |
合計 | 57 | 100.0 |
(3) 被災労働者の従事業務別内訳(表3)
管理的な立場にある者(労働基準法第41条の管理・監督者以外の管理職を含む。)は18人で、これらの役職にない一般労働者は39人であった。
一般労働者の業務内訳は、営業・販売に従事する者が11人と最も多く、次いで自動車運転者8人、技術職6人の順となっている。
(表3)業務別内訳
従事業務等 | 労働者数 | |
---|---|---|
管理的な立場にあった者 | 18 | |
一般労働者 | 39 | |
営業・販売に従事する者 | 11 | |
自動車運転者 | 8 | |
技術職 | 6 | |
調理等 | 3 | |
企画・編集 | 3 | |
その他*1 | 8 |
*1 その他の8人は、事務職、介護職、清掃作業員、警備員、教諭等の労働者である。
3 監督指導結果の概要(表4の1、2)
(1) 監督指導を実施した57事業場のうち、48事業場(違反率84.2%)において労働基準法、労働安全衛生法等の法違反が認められ、法違反が認められなかった9事業場のうち7事業場に対しても労働時間の適正管理、過重労働による健康障害防止等について文書による改善指導を実施した。
(2) 指摘した違反項目を違反率で見ると、労働基準法では、時間外・休日労働の届出なく又は協定の範囲を超えて時間外労働をさせていたもの(同法第32条)が35事業場(同61.4%)と最も高く、次いで時間外手当等の未払(同法第37条)が24事業場(同42.1%)で、不適切な労働時間管理が多く認められた(表4の1)。
(3) 労働安全衛生法では、衛生委員会未設置(同法第18条)が8事業場(同29.6%)と最も多く、次いで衛生管理者未選任(同法第12条)、産業医未選任(同法第13条)がそれぞれ6事業場(同22.2%)あり、衛生管理体制の不備が少なからず認められた(表4の2)。
表4の1 法違反の状況
労働基準法 違反 |
違 反 事業数 |
違反率 | |
---|---|---|---|
労働時間 (法32条) |
35 | 61% | |
割増賃金 (法37条) |
24 | 42% | |
就業規則 (法89条) |
13 | 23% | |
賃金台帳 (法108条) |
12 | 21% | |
休日 (法35条) |
9 | 16% | |
労働条件明示 (法15条) |
8 | 14% | |
賃金支払 (法24条) |
8 | 14% |
表4の2 法違反の状況
労働安全衛生法 違反 |
違反 事業数 |
違反率 | |
---|---|---|---|
衛生委員会 (*法18条) |
8 | 30% | |
衛生管理者 (*法12条) |
6 | 22% | |
産業医 (*法13条) |
6 | 22% | |
健康診断結果報告 (*安衛則52条) |
5 | 19% | |
定期健康診断 (安衛則44条) |
9 | 16% | |
衛生委員会付議事項 (安衛則22条) |
4 | 15% | |
雇入時の健康診断 (安衛則43条) |
4 | 7% |
*印は事業場規模50人以上に適用
4 対象事業場における管理状況
(1) 被災労働者に対する健康診断の実施及び事後措置の状況(表5)
被災労働者に対して発症前の1年間に健康診断(採用後1年未満の者は雇入時の健康診断を含む。)を受診させていなかった事業場は13事業場(22.8%)であった。
健康診断を受診した被災労働者44人中、何らかの所見が認められた者は28人(受診者の63.6%)いたが、これら有所見者に対し事後措置*1を講じた事業場は11事業場(39.3%)で、17事業場(60.7%)は講じていなかった。
(表5)被災労働者の健康診断及び事後措置の実施状況
実施事項 | 人数 | 比率 | |||
---|---|---|---|---|---|
被災労働者数 | 57 | / | |||
健康診断を受けなかった者 | 13 | 22.8 | |||
健康診断を受けた者 | 44 | 77.2 | |||
所見が認められなかった者 | 16 | 36.4 | |||
所見が認められた者 | 28 | 63.6 | |||
事後措置を講じた者 | 11 | 39.3 | |||
事後措置を講じなかった者 | 17 | 60.7 |
*1 有所見者に対する事後措置
- 医師等からの意見聴取
- 労働者の就業上の措置に関しその必要性の有無、講ずべき措置の内容に係る意見を聴取
- 勤務軽減措置
- 医師等の意見を勘案し、必要があると認められるときは、その労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業転換、労働時間の短縮深夜業の回数減少等の措置を講じる
- 保健指導の実施
- 医師、保健師による保健指導実施
(2) 労働時間の把握状況
被災労働者について、労働時間の把握を行っていなかった事業場は13事業場(22.8%)あった。
(3) 過重労働による健康障害防止対策の実施状況
過重労働による健康障害防止を発生させた時期に、医師による面接指導*1を実施していなかった事業場は36事業場で、全体の63.2%であった。
*1 事業者は、長時間労働により疲労が蓄積し健康障害のリスクが高まった労働者について、その健康の状況を把握し、これに応じて本人に対する指導を行うとともに、その結果を踏まえた措置を講じなければならないとされており、本人の申出に基づき、
時間外・休日労働が1月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者については実施義務
時間外・休日労働が1月当たり80時間を超える場合、事業場が定めた基準(例えば1月100時間又は2~6か月平均で1月80時間を超える、1月45時間を超える等)については努力義務
となっている。
(4) 衛生管理体制等の整備状況(表6)
過重労働による健康障害を発生させた時期に、衛生委員会を設置していなかった事業場は8事業場(29.6%)であり、衛生管理者、産業医を選任していなかった事業場はそれぞれ6事業場(22.2%)、産業医が職務の適切な実施を行っていなかった事業場は2事業場(7.4%)であった。
(表6)衛生管理体制の整備状況
実 施 事 項 | 事業場数 | 違反率(%) |
---|---|---|
衛生委員会未設置 | 8 | 29.6 |
衛生管理者未選任 | 6 | 22.2 |
産業医未選任 | 6 | 22.2 |
産業医の職務未実施 | 2 | 7.4 |
(5) 自主的な改善状況(表7)
過重労働による健康障害を発生させた後、監督指導実施までに自主的に改善を行った事業場は27事業場(47.4%)であった。
改善した事項の概要は、労働時間の適正把握、長時間労働の是正がともに12事業場(改善した事業場の44.4%)と最も多く、次いで健康診断の実施、衛生委員会活動強化の2事業場(同7.4%)などの順となっている。
(表7)自主的改善状況
改善した事項 | 事業場数 | 改善した事項 | 事業場数 |
---|---|---|---|
労働時間の適正把握 | 12 | 保健指導 | 1 |
長時間労働の是正 | 12 | 医師による面接指導 | 1 |
健康診断の実施 | 2 | 産業医の選任 | 1 |
衛生委員会の活動強化 | 2 | 産業医の活動強化 | 1 |
医師等からの意見聴取 | 1 | その他 | 6 |
5 過重労働による健康障害防止対策に関する東京労働局の取組について
(1) 平成20年の東京における労働者1人平均年間総実労働時間は、1,854時間(所定 1,690時間、所定外164時間)と前年に比べ6時間減少したが、労働力調査による週労 働時間別の雇用者の分布によると、依然として「労働時間分布の長短二極化」の状況にある。
(2) このような状況において、過重労働による健康障害事案の発生が依然として後を絶たず、脳・心臓疾患等の労災請求・認定件数も高水準で推移していることから、東京労働局では、平成21年度においても「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(平成18年3月17日付け基発第 0317008号)等に基づき、
適正な時間外労働協定の締結・届出について、引き続き労使当事者に対し指導を行うこと
健康診断と健康診断実施後の措置、保健指導等を確実に実施すること及び長時間労働者に対し、医師による面接指導等を実施するよう指導を行うこと
過重労働による健康障害を発生させるおそれのある事業場に対する指導を強化し、労働基準関係法令違反には、厳正に対処していくこと
過重労働による健康障害防止運動において毎年9月を推進月間と定め、労使による過重労働防止対策の自主的促進を図るため、「第14回 産業保健フォーラムIN TOKYO 2009」平成21年9月4日(金)九段会館 別添リーフレット)を開催するほか、各署で開催する労働衛生週間説明会等あらゆる機会をとらえ集中的な周知啓発を行うこと
など積極的に対策を推進することとしている。